身体科におけるうつスクリーニング検査&研修・臨床研究ソフト 身体疾患患者精神的支援ストラテジー

「本ソフトウェアの開発背景と趣旨」

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所社会精神保健研究部部長
伊藤 弘人

身体疾患を患うと、うつや不安が高まることは、日々臨床で経験するところである。別章で紹介するように、近年までの疫学研究を総合すると、慢性身体疾患患者の5名に1名程度は、うつ病が疑われるという。

また、慢性疾患とうつ病を併発・合併すると、予後が悪化することも、複数の身体疾患で確認をされてきている。たとえば冠動脈疾患を中心とする心疾患患者にうつ(うつ病またはうつ状態)があると、死亡リスクは1.6倍になる (Nicholson et al., 2006)。身体疾患とうつ病の併存・合併症例を早く見極め、うつ病治療を行うことで、予後の改善を目指すことが期待されている。

すでに多くの慢性疾患で、うつのスクリーニング手法が開発されている。いくつかの国際的な学術団体では、標準化されたうつのスクリーニングが、身体科の診療の一環として推奨されるようになっている。スクリーニング手法の中には日本語版も開発されている。わが国の医療機関の中には、すでに身体科で日常的にうつのスクリーニングが行われている場合もある。

PHQ-9は、簡便であることから、アメリカ心臓協会(Lichtman., 2008)をはじめ、複数の学術団体で使用が推奨されている。すでに日本語版PHQ-9が存在し、その有用性が確認されていることも魅力的である。PHQ-9の日本語版を開発した村松公美子先生には、この場を借りて敬意を表したい。海外での開発早期から、この尺度の重要性を認識し、日本語に翻訳しただけでなく、日本語版尺度の有用性を学術的に確認・発表するという手続きを行った。このプロセスがあるからこそ、現在PHQ-9の結果は、海外へも比較可能なデータとして活用できるのである。

このような国内外の現状から、わが国においても、PHQ-9が簡便に実施できるシステムがあるとよいと考えていたところ、NOVA出版とお会いする機会を得た。何度か意見交換をしていくうちに、各病院で臨床支援・臨床研究に役立つソフトウェアの開発を目指すということになった。

当初の希望は、臨床でうつの評価を支援するシステムとして、また2次的に臨床研究にも活用できるようデータベース化できるシステムとしてもらいたいというものであった。その後、国立がん研究センターの小川朝生先生、国立国際医療研究センターの峯山智佳先生、そして東京女子医科大学循環器内科の志賀剛先生と鈴木豪先生にご指導をいただき、臨床でどのようなシステムとするのがよいかの意見を頂戴し、改善を進めた。特に臨床医が関わらなくても自動的に患者が入力できる方法、そして必要であれば文章が音読される方法は、臨床での導入をできる限りスムーズにできることを願っての工夫である。

ただし、現段階での課題もある。本ソフトウェアで入力・保存されている結果が、村松先生が開発した日本語版と同じ結果となっているかについては、確認作業は終わっていない。本ソフトウェアを活用される医療機関で、ぜひこの研究を行っていただき、その結果を報告いただけると幸いである。

開発に関与したすべての医療関係者、ご相談申し上げたすべての関係者の先生方に、この場を借りてあつくお礼申し上げる。本ソフトウェアの販売は、NOVA出版と国立精神・神経医療研究センターとの契約に基づくものである。本ソフトウェアが広く活用され、日常診療においてうつの評価と支援がなされ、身体疾患患者の生活の質の向上と予後の改善につながることを願う。

(冊子「身体疾患患者精神的支援ストラテジー」から全文掲載)