身体科におけるうつスクリーニング検査&研修・臨床研究ソフト 身体疾患患者精神的支援ストラテジー

内分泌代謝領域

独立行政法人 国立国際医療研究センター国府台病院
 内科 糖尿病・内分泌外来
峯山 智佳

内分泌代謝領域における精神疾患には、「一般身体疾患による精神疾患」に分類されるものと、「身体疾患に合併する精神疾患」に分類されるものの2つがあります。これまでは「一般身体疾患による精神症状」、つまりバセドウ病やクッシング症候群、電解質異常などに代表される内分泌・代謝性疾患によって、直接引き起こされる生理的影響のために精神症状をきたす場合について、主に精神疾患を鑑別する上で見落としを防ぐという観点から語られてきたように思います。これに加えて最近は、もう一つの「身体疾患に合併する精神疾患」、さらに具体的にいうと「糖尿病とうつ病の併存」に関心が高まってきています。

糖尿病については、これまでに様々な精神疾患と併存しやすいことが報告されてきています。統合失調症やうつ病に罹患している患者さんでは糖尿病の発症リスクが高くなることが報告されている一方、糖尿病患者さんではうつ病、不安障害の発症リスクが高まることや、1型糖尿病の女性患者さんで摂食障害の発症リスクが高まることが報告されています。(略)42の横断研究に基づくメタ解析によると、糖尿病患者のうつ病有病率は糖尿病のない集団と比較して約2倍高く、その結果は1型・2型糖尿病の別や性別に関わらず有意であることが報告されています。さらに、うつ病併存糖尿病患者さんにおける糖尿病とうつ病発症の時系列を検討する目的で行われた、前向き縦断研究のメタ解析において、糖尿病が先行した場合のうつ病発症の相対危険度が1.15(95%CI:1.02-1.30)と、軽度ではあるものの有意に上昇することが明らかにされました(図1)。

厚生労働省の平成19年国民健康・栄養調査によると、HbA1c(JDS)値_6.1%、もしくは現在糖尿病治療中であって「糖尿病が強く疑われる人」は約890万人、5.6%_HbA1c(JDS)値<6.1%で、上記以外の「糖尿病の可能性を否定できない人」は1,320万人と、合計すると約2,210万人が糖尿病に罹患しているかそのハイリスクである可能性を報告しています。この糖尿病の有病率の高さを考えると、糖尿病療養中におけるうつ病発症の相対危険度1.15という数値は、決して無視できない値であると考えられます。なお、同論文内では、うつ病が先行した場合の糖尿病発症リスクも検討されており、1.60(95%CI:1.37-1.88)と、糖尿病が先行した場合よりも高いリスクで、やはり有意に上昇することが示されています。(略)

(略)糖尿病治療の目標は体重や血糖値を良好に維持することだけにとどまらず、「健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持、健康な人と変わらない寿命を確保」することです。このことを踏まえると、すくなくとも糖尿病で通院中の患者さんに併存するうつ病を見落とさないように注意し、必要に応じて適切な精神保健サービスを提供することは、糖尿病の治療目標を達成する上でも必要であると考えられます。

一般的に慢性身体疾患に罹患している患者さんでは、精神保健の専門家による介入が必要な臨床的な「うつ病」の方が、約10%程度存在するとされています。そして「抑うつ症状」を併存している症例の見落としを少なくするためには、通院している糖尿病患者さん全例を対象とした系統的なスクリーニングが有効で、理想的だと言われています。ただし、スクリーニングを実施するためには、その前提として、環境整備を十分にしておく必要があります。(略)事前準備なしにスクリーニングを行おうとすると、本来の糖尿病診療業務に支障をきたして、患者さんにご迷惑をおかけしてしまう危険性もありますので、まずは各医療機関の精神保健医療体制を勘案しつつ、スモール・ステップから取り組んでいただく必要があろうかと考えます。

うつ病併存糖尿病患者さんを見落とさないためには、うつ病発症のハイリスク者がどのような症例かを認識しておくことも重要です。糖尿病患者さんにおけるうつ病発症のリスク因子として、医学的要因には、1.新たに糖尿病と診断されたり、2.糖尿病の重症合併症が発症、進展したとき、3.特にインスリン導入など、治療法が変更されたとき、などが挙げられます。また個人、社会的な要因としては、4.うつ病などの精神疾患の既往があること、5.相対的に若いこと、6.神経質な性格であること、7.一人暮らしであるなど、社会的サポートが乏しいこと、8.教育歴が短いこと、などが挙げられます。上記以外に、経過中に治療へのアドヒアランスが低下していると疑われる場合や、低血糖発作や糖尿病ケトアシドーシスなどの急性合併症が頻発したり、予約外や救急外来への受診頻度が増加したりしているとき、などはうつ病の併存も考慮すべきだとされています。これらの内容は、日本糖尿病学会編「糖尿病治療ガイド2012-13」の「3治療 C:糖尿病患者教育とチーム医療、3心理的問題の扱い方」の中で、特に精神医学的配慮をすべき状況としてまとめられています。

(略)本ソフトでは、PHQ-9の結果を、もともとの質問紙法の形式に即して入力することが可能です。またExcel形式で出力できるので、身体疾患の臨床現場でうつ病のスクリーニングを本格的に実施しようとする際、煩雑になりがちなデータの管理や、学術的な解析などに、その活用方法をご検討いただけると考えます。

(冊子「身体疾患患者精神的支援ストラテジー」から抜粋)