身体科におけるうつスクリーニング検査&研修・臨床研究ソフト 身体疾患患者精神的支援ストラテジー

身体科におけるうつ病のスクリーニングツールの留意点

新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科、
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所社会精神保健研究部
村松 公美子

I.PHQ(Patient Health Questionnaire)を用いた
  スクリーニングツール開発の背景と位置づけ

プライマリケア領域や身体科において、うつ病をスクリーニングし評価するための有用なツールは数多くあります。その中で、今回Patient Health Questionnaire(PHQ)をモデルとして、電子版ツールとして提案した背景を、その開発経緯の紹介を交えて説明します。

日常診療で多忙なプライマリケア医のために、短時間で精神疾患を診断・評価するためのシステムPrimary Care Evaluation of Mental Disorders (PRIME-MDTM)1) が、1994年アメリカで開発されました。その後さらに実施時間を短縮させるためにPRIME-MDの自己記入式質問票版としてPatient Health Questionnaire (PHQ)2)が開発されました。

原版のPHQは、プライマリケア医が日常診療において遭遇する機会が多い大うつ病性障害、その他のうつ病性障害、パニック障害、その他の不安障害、神経性過食症、むちゃ食い、身体表現性障害疑い、アルコール乱用/依存疑いの8種類の診断・評価ができるようになっています。これらの中からうつ病性障害に関わる9つの質問項目を抽出して作成された質問票を、PHQ-9と呼びます3)

著者らは、PHQの日本語版についてback-translationを経て作成し信頼性・妥当性研究を行っています4) 。このPHQ日本語版4)から、PHQ-2日本語版(2013 NCNP版:表1)およびPHQ-9日本語版(2013 NCNP版:表2)を、今回、電子版のスクリーニングツールとして提案しています。

なお、PHQ日本語版4)をもとに、自己チェックツールとして簡易自己記入式質問票(印刷版)はすでにPHQ-9「こころとからだの質問票」5)6)7)として活用されています。

II. PHQ-9日本語版(2013 NCNP版)を用いた
  気分障害スクリーニング評価のステップ

臨床場面でPHQを使用した気分障害スクリーニング評価するステップを4段階で示します。問診=ステップ1 、身体疾患および薬物の関与によるうつ状態の鑑別=ステップ2 、PHQ-9スクリーニング評価=ステップ3 、症状レベルの評価=ステップ4 です。そのポイントは以下の通りです。

ステップ1:問診

問診では、時間が限られているため、PHQ-2日本語版(2013 NCNP版)の質問項目A1および質問項目A2によるスクリーニングを行います。そして、2つの質問項目のいずれか1項目が「はい」の場合は、PHQ-9スクリーニングを行うことが推奨されます。なお、この段階で専門医に紹介するという選択肢もありますが、「うつ病」でない場合もあることを留意する必要があります。

ステップ2:身体疾患および薬物の関与によるうつ状態の鑑別

PHQ-9スクリーニングを実施する前に、身体疾患の症状としてうつ状態を発現する場合や薬物の影響によるうつ状態を鑑別することが望ましいです。その場合は、うつ病の治療とは異なるそれぞれの治療・ケアが必要となるためです。薬物の関与や脳器質性要因や薬物の関与の影響がないと判断された場合、次のステップに進むことが望ましいです。なお、薬物が原因によって起こる薬剤惹起性うつ病には、β遮断薬、カルシウム拮抗剤、副腎皮質ステロイド、抗パーキンソン薬、H2受容体拮抗薬、抗ヒスタミン剤、経口避妊薬、インターフェロンなどが関係する場合があります。

ステップ3:PHQ-9スクリーニング評価(DSM-IVアルゴリズム診断8))

PHQ-9は、PHQのうつ病評価に関する9つの質問項目で構成されています。過去2週間の症状について、「全くない」「数日」「半分以上」「ほとんど毎日」、の4段階で回答します。9つの質問項目のうち、5つ以上が過去2週間の「半分以上」に存在し、そのうち1つに「抑うつ気分(質問項目B)」もしくは、「興味または喜びの消失(質問項目A)」が存在した場合に“大うつ病性障害”を疑います。また、9つの質問項目のうち、2〜4つの症状が過去2週間に「半分以上」存在しており、そのうち1つに「抑うつ気分(質問項目B)」もしくは、「興味または喜びの消失(質問項目A)」が含まれる場合は“その他のうつ病性障害”とします。なお、質問項目Iの「死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある」については、「数日」にチェックがあった場合も1点と数えるため,評価時には特に注意が必要です。

また“大うつ病性障害”、“その他のうつ病性障害”の診断・評価は、「死別反応の場合、躁病エピソードの既往がある場合、ステップ2で前述したように一般身体疾患による気分障害の場合、物質誘発性(投薬を含む)の場合、器質的要因がある場合」は除外します。

PHQ-9スクリーニング評価に際して紹介・併診が望ましい場合を表35) に示していますが、自殺のリスクが高い場合は、迅速に精神科医療機関への紹介が望ましいです。また、大うつ病性障害以外の気分障害の鑑別は、プライマリケア医にとっては困難なことも多いです。うつ状態を呈していても、双極性障害と単極性うつ病性障害の鑑別は、専門医でも難しいことがあります。両疾患の治療方法は、異なることから、注意して鑑別を行う必要があるため、病歴や経過中に躁病エピソードを認め、双極性障害が疑われる場合は、精神科専門医へ紹介します。その他表3に示す精神疾患や状態像が疑われる場合においても、精神科専門医への紹介・併診など、円滑に連携することが必要です。また、うつ病患者の半数以上が不安障害を並存している可能性があり、特にパニック障害や社会不安障害の並存率が高いことから、不安障害の併存の有無・鑑別も重要です。不安障害を並存している場合には、転帰や治療反応性が悪いことから、同様に精神科専門医への紹介・併診などの連携が望ましいです。そのためにもプライマリケア医療機関と精神医療サービスとの円滑な連携が要請されます。

表3.精神科専門医に紹介・併診が望ましい場合*

  1. 自殺リスクが高い場合
  2. 双極性障害(疑いを含む)
  3. 産後発症のうつ病性障害
  4. 初期の治療反応性が乏しい場合
  5. 複雑な心理社会的要因が背景にある場合
  6. 診断に苦慮する場合
  7. 軽度〜中等度うつ症状が遷延している場合
  8. 不安障害を併発している場合
* Kroenke K et al. (2002)を改変

ステップ4:PHQ-9スクリーニング評価(症状レベルの評価)

回答を「全くない=0点」「数日=1点」「半分以上=2点」「ほとんど毎日=3点」として総得点を算出したものを、PHQスコアとします。その範囲は0〜27点です。この得点は、症状レベルの指標として用いられます。プライマリケア医が、簡単に記憶できるように、5点、10点、20点を症状レベルのカットポイントとしています。

0〜4点はなし、5〜9点は軽微〜軽度、10〜14点は中等度、15〜19点は中等度〜重度、20〜27点は重度の症状レベルであると評価します。1つのカットポイントのみを選択する場合は、PHQ-9の開発者のKroenke Kら3)は、「10点以上」が大うつ病性障害が存在する可能性の閾値としています。著者らが、PHQ-9日本語版について行った検討においても同様に「10点以上」が大うつ病性障害が存在する可能性の閾値でした11)

「日常生活や社会生活機能障害の程度」の評価

4段階のステップで、うつ症状のアセスメントを行った後に、PHQ-9のA〜Iの質問項目で示されるそれぞれの問題によって、「仕事をしたり,家事をしたり,他の人と仲良くやっていくことがどのくらい困難になっていますか?」という質問を行います。本ソフトで提示されるPHQ-9の質問項目には入っていませんが、PHQ-9原版には提示されています。この質問を行うことにより「日常生活や社会生活機能障害の程度」を把握することができ、被験者の総合的なアセスメントに有用であることから、参考のために表2(11頁参照)の中では、最後の質問項目として提示しています。

III.PHQ-9日本語版(2013 NCNP版)
  スクリーニング評価後の参考指針

PHQ-9を使用したうつ病性障害のスクリーニングは、うつ病の診断・治療のプロセスのひとつです。その後、どのようにスクリーニング結果を活用するかを念頭においてこのツールを用いる必要があります。

参考までに、American Heart Asso-ciation(AHA)のScience Advisoryが推奨するPHQ-9によるスクリーニング指針5) 10)に沿って、次のような指針を提案します。

(1) 短期の軽微・軽度の症状レベル:PHQ-9が10点以下

この場合は、1ヵ月間、支持的、教育的にフォローアップすることにとどめる。ただし、1ヵ月後も症状が持続しているか、あるいは悪化している場合には、適切な診断と治療が可能な専門医に紹介し、さらに包括的臨床的評価を行うことが望ましいです。

(2) PHQ-9が10点以上

PHQ-9が10点以上の場合は、適切な病像の評価と診断および治療マネジメントが可能な専門医に紹介し、うつ病性障害以外の他の精神疾患についての評価を含めた詳細な包括的臨床的評価を行い、適切な治療(抗うつ薬、認知行動療法、補助的介入)を導入することを検討する必要があります。ただし、重症度により、そのタイミングはそれぞれ考慮することが現実的です。

PHQ-9スコア10〜19点で、かつ大うつ病性障害の診断に適合する場合は、軽度〜中等度の大うつ病性障害の可能性が高くなります。併存精神疾患がなく複雑な病像でないタイプであり、大うつ病エピソードの既往は、1〜2回までです。

一方、PHQ-9スコア20点以上であり、3回以上の大うつ病エピソードの既往がある場合は、中等度以上の大うつ病性障害である可能性があります。双極性障害の既往、自殺の危険性、薬物依存、他の併存精神疾患や精神医学的問題などが認められる場合も少なくありません。精神医学的対応への必要度は一層高くなります。

緊急度の評価が最も重要なのは、PHQ-9の第9番目の質問項目I「自殺念慮、自殺企図」の評価です。この項目に「数日、半分以上、ほとんど毎日」のいずれかにチェックしている場合は、自殺念慮と自殺企図について確認します。もしリスクがある場合には、安全の確保をしながら、切迫度を評価し、精神科救急医療等に紹介する必要があります。

IV.PHQ-9日本語版(2013 NCNP版)による
  うつ病スクリーニング評価の限界

簡易構造化面接法や自己記入式うつ病スクリーニングツールは、多忙なプライマリケア医や身体科医にとっては、簡易に使用できるツールとして利便性は高いです。一方で、簡略化しすぎた面接や単に質問票の得点結果から「うつ病」であると安易に診断してしまうこともあり、過剰診断傾向に陥る可能性があることも念頭においておく必要があります。

PHQ-9は、DSM-IVの第I軸のみをスライスして「症状群」のみを評価するため、病態の全体像を把握するためには、II〜V軸までの多軸診断による包括的臨床的評価が必要です。一般身体疾患の場合、ごくありふれた「軽症の疾患」である場合、概ね「診断」が困難であることはありません。しかし、精神疾患の場合は、「軽症」であるほど、カテゴリー診断による明確なラベルづけが困難になります。PHQ-9によって症状レベルが、「軽度〜中等度」である場合、明らかに症状が顕在している「重度」の「大うつ病性障害」よりも、診断面では相応の専門的力量を要します。スクリーニングされた症例について、適切な診断と治療戦略のためには、「大うつ病性障害」以外の疾患についての十分な診断弁別能力と臨床能力が要求されます。

PHQ-9をスクリーニングツールとして使用する場合においても、スクリーニングツールが内包する問題点を念頭におき、使用することが望ましいです。PHQ-9スクリーニング評価に際して、紹介・併診が望ましい場合(表3)において示したように、プライマリケア医や身体科医が、スクリーニングされた症例について、併存する精神疾患や鑑別すべき精神疾患が疑われる場合には、専門医に円滑に紹介・相談し、さらに包括的臨床的視点からの評価・診断を行う必要があります。そのためにはコメデイカルスタッフ、プライマリケア医、専門医などの地域医療連携ネットワークの構築がより一層望まれます。

文献

  • 1) Spitzer RL, Williams JBW, Kroenke K, et al. Utility of a new procedure for Diagnosing Mental Disorders in Primary Care: the PRIME-MD 1000 study. JAMA 272: 1749-1756, 1994.
  • 2) Spitzer RL, Kroenke K, Williams JBW, et al. Validation and utility of a self-report version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study. JAMA 282: 1737-1744, 1999.
  • 3) Kroenke K, Spitzer RL, Williams JBW. The PHQ-9: Validity of a brief depression severity measure. J Gen Intern Med 16: 606-613, 2001.
  • 4) Muramatsu K, Miyaoka H, Kamijima K et al. The Patient Health Questionnaire, Japanese version: validity according to the Mini-International Neuropaychiatric Interview-Plus. Psychological Reports 101: 952-960, 2007.
  • 5) 村松公美子, 宮岡等, 上島国利, 他.プライマリケアにおけるうつ病スクリーニングに有用な評価ツール:Patient Health Questionnaire (PHQ)-9について. 精神科治療学24: 1299-1306, 2008.
  • 6) 村松公美子, 上島国利.プライマリ・ケア診療とうつ病スクリーニング評価ツール:Patient Health Questionnaire-9日本語版「こころとからだの質問票」.診断と治療 97: 1465-1473, 2009.
  • 7) 村松公美子.プライマリケア医に有用な気分障害の認識・評価方法.最新うつ病のすべて 別冊・医学のあゆみ(樋口輝彦 編).pp. 33-39. 医歯薬出版. 東京. 2010.
  • 8) American psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder. DSM-IV-TR.4th Edition. Text Revision Edition. American Psychiatric Association, Washington, DC, 2000.
  • 9) Kroenke K, Spitzer RL. The PHQ-9: A new depression diagnostic and severity measure. Psychiatric Annals 32: 509-515, 2002.
  • 10) Lichtman JH, Bigger T, Blumenthal JA, et al. Depression and coronary heart disease. Circulation 118: 1768-1775, 2008.
  • 11) Muramatsu K, Miyaoka H, Kamijima K et al: The Patient Health Questionnaire, Japanese version-9; validity according to the Mini-International Neuropaychiatric Interview-Plus.(submitted)

(冊子「身体疾患患者精神的支援ストラテジー」から全文掲載)