身体科におけるうつスクリーニング検査&研修・臨床研究ソフト 身体疾患患者精神的支援ストラテジー

循環器領域

東京女子医科大学 循環器内科
鈴木 豪

(略)循環器領域では、冠動脈疾患の約16〜23%に抑うつ状態が合併するといわれています。それは、循環器領域で遭遇する精神的問題には、このような身体疾患に伴う心身症(心因反応からくる抑うつ状態)の患者と、うつ病が併存する患者の場合とがあり得るということになります。

(略)うつ(depression)と循環器疾患の関連の機序については、両方向性に影響をおよぼすものとして多くの報告があります。

従来から、心拍変動の低下や交感神経の過剰亢進などが取り上げられていますが、うつ病や不安障害がある場合、生活習慣や行動様式、糖尿病などの合併疾患の関与があり、その機序は複雑です。

入院中の循環器疾患患者において、抑うつの全例調査を行ったところ約22%の頻度で中等度以上の抑うつ傾向がみられ、うつ群では心血管イベント、総死亡が有意に多いことが示されました。(Fig1, 2a, 2b

また、多変量解析ではNYHA心機能分類、およびICD(致死性不整脈)、心機能、年齢、性別などを補正してもなお抑うつは独立した予後悪化因子でした。(Table1

また、ICD使用患者においては、一定の割合でうつや不安障害が存在することも多くの研究で示されています。

Sear等によるとICD使用患者の24〜87%の患者にうつや不安がみられ、13〜38%は臨床上困難な不安を抱えていると報告されています。

私たちの報告においても、横断調査ではICD使用患者の32%が抑うつ症状を有し、2年間の調査期間を経ても約75%の患者において、抑うつが持続していました。抑うつの持続には、いくつかの要因が考えられますが、ICDのショック作動は、うつの持続と関連していました。

ICD使用患者の抑うつや不安を維持させる要因は、もちろん作動のみならず、家族のサポートや年齢、性格傾向もあげられ、それらが複雑に絡み合い、症例によっては医療者の介入が困難なケースにも遭遇します。

先にのべたように、虚血性心疾患でのうつの合併頻度は、多くの報告がありますが、使用するスケールや母集団の重症度によりその頻度には大きな差があります。

循環器疾患と抑うつは、密接な関係があり、その存在は、予後にも影響することが示されていることから、循環器診療において、抑うつ傾向を把握することは、重要な点と考えられます。しかし、循環器診療のなかで多種多様な抑うつのスケールを使用することには、時間的、物理的制約も大きいため、簡便なスケールが望まれます。

そのため、2008年AHAにより提唱された心臓血管疾患における「うつ」の日常的スクリーニングの方法としてPHQ(Patients Health Questionnare)を用いた簡便なスクリーニングで、心臓血管疾患の予後悪化因子であるうつ評価をし、その対応を検討するシステムが登場し、現在、臨床の現場で使用されつつあります。(Fig 3)

Fig.3 AHA Science Advisory

(略)私たちの施設において実施した、連続360例のPHQ-9のスクリーニングでは、AHAの推奨するPHQ-9>10のカットオフ値にて約15%が陽性でした。PHQ-9>20の重い抑うつ傾向者は、2%でした。AHAの推奨するフローチャートでは、20点以上の重症例と同様に10点以上19点以下の軽度から中等度の場合も専門医および専門機関への紹介となっています。

私たちのデータにおいても、20点以上の重症例は、PHQ-2項目とも陽性であり、疾患別では、SDSでの結果同様に重症心不全やICD/CRTDなどの使用例であり、そのうち半数は専門科への紹介の判断としました。

このようにPHQでは、簡便なスケールが使用可能になっており、循環器日常診療で、予後に関連する因子であるうつのスクリーニングをする有用なツールであると考えられます。

PHQ-9は、基本、自記式のスケールであり、質問票を配布したうえで、患者が回答し、回収してスコアを算出します。紙媒体を使用するのが通常の使用法です。

本ソフトは、臨床の現場でスクリーニングをコンピュータ上で行い、結果の確認、印刷、配布が即時に可能であり迅速かつ簡便にスクリーニング施行が可能です。

また、AHAの推奨にあるように、PHQ-2を行い、陽性患者に対してPHQ-9施行といった流れも行うことができます。

外来のブースなどでもPCを設置することで、常設スクリーニングシステムとして使用可能です。

日常臨床でのスクリーニングの支援媒体として有用であると考えられます。

(冊子「身体疾患患者精神的支援ストラテジー」から抜粋)